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【ライブレポート】Streaming Concert『SUBURBIA』

9月18日、鬼束ちひろが2016年の「Ustream」以来となる配信ライブ<STREAMING CONCERT「SUBURBIA」>を開催した。今年2月にデビュー20周年を迎え、ヒット曲や鬼束自身が選んだ思い入れの深い曲(後者はプレミアム・コレクターズ・エディションに収録)を収録したオールタイムベストアルバム『REQUIEM AND SILENCE』を発表したが、今回の「SUBURBIA」はまさに鬼束ちひろのオールタイムベストを凝縮したようなセットリストとなった。豊かなヴォーカルと、ピアノ・坂本昌之、バイオリン・室屋光一郎、チェロ・結城貴弘によるアンサンブルは芳醇で、かつ配信だからこそ音楽と一対一で濃密に向き合うような贅沢なライブとなった。

 1曲目に選んだのは「月光」。ライブならではの静かな緊張感を湛えたはじまりから、エモーショナルでふくよかなヴォーカルで一気にその歌の世界へと引き込んでいく。そして「流星群」では、弦楽器にも似た繊細なビブラートを聴かせる歌声が、その歌の景色を広げ、狂おしいほど観るものの胸をつかんでいく。前半で空気を一転させたのは「Tiger in my Love」。パーカッシヴなピアノにのせ、曲が進むごとに躍動的に、ソウルフルなヴォーカルを響かせる。その骨太な「Tiger in my Love」から荘厳な「BORDERLINE」へという流れは圧巻で、魂を解き放つような鬼束ならではの旋律とヴォーカルに、心を強く掴まれる感覚。鬼束は、その身を震わせ、最後にはうずくまってその心の叫びを全身で伝えていく。

 また中盤では、「MAGICAL WORLD」や「悲しみの気球」でフォークロアな香りが漂う歌唱で、ストーリーテラーとしての側面も見せる。オレンジの明るい照明の中で歌った「EVER AFTER」では、かけがえのないものを抱きしめるように、歌声もその表情も和らいでいったのも印象的だ。MCなどは挟むことなく、数珠つなぎに曲を披露していったが、1曲、1曲、その曲を生きる鮮やかさや呼吸、鼓動が感じられる。何篇もの映画、重厚な物語を味わうようで、時を忘れる。終盤の「眩暈」「CROW」そして「蛍」は怒涛の流れで、感情がジェットコースターのように揺さぶられる。情熱的に語りかける「CROW」のヴォーカルは、徐々に高揚感を増してエンディングの英語詩パートはゴスペルのように、伸びやかにその歌声が舞い上がっていった。終曲は「蛍」。まさに蛍の瞬きのような弦楽器の抑揚のある音色に合わせて手をふり歌い、詩情溢れる世界を描き出した。甘美な余韻を醸すなか、なんとここで鬼束の愛猫が登場。猫を抱き、メンバーに「礼」と声をかけお辞儀をし、チャーミングな笑顔を見せた。普段のライブとはまた一味ちがった鬼束のプライベートな雰囲気が新鮮だ。画面越しではあるが、ともに親密な時間を過ごしたライブだ。

(ライター:吉羽さおり)