【ライブレポート】「UNHESITATE」東京公演ライブレポート。(ライター:吉羽さおり)
9月18日にSTREAMING CONCERT「SUBURBIA」に続き、久しぶりの有観客によるコンサートツアー「UNHESITATE」を開催した鬼束ちひろ。その初日となった東京・Bunkamuraオーチャードホール公演は、新型コロナウイルスの感染防止対策のため観客数をキャパシティの半数ほどに絞られたが、それでも1曲、1曲への拍手がいつも以上に大きく聞こえたのは、こうして生でライブを体感できることの喜びが溢れていたからだろう。
会場が心地よい緊張感で包まれたなか、まずはピアノ・坂本昌之、バイオリン・室屋光一郎、チェロ・結城貴弘が登場し、イントロダクションとなる叙情的なピアノの演奏がスタート。そして鬼束ちひろがステージに歩み出ると、1曲目「BORDERLINE」のイントロが静かに奏でられた。グッとアクセルを踏み込むように歌い出した鬼束のボーカルはソウルフルで、曲が進むに連れて自身を解き放っていくような高揚感があり、声のグルーヴが生まれていく。はじまりから会場の空気を掌握するステージで、ニューアルバム『HYSTERIA』にも収録された「End of the world」、「Tiger in my love」へと続いた。アンサンブルと歌声との躍動が、観客の心を静かに振動させるようで、会場内の密度が上がった感覚だ。中盤は、より繊細でエモーショナルな曲が並ぶ。ストリングスの音色とスロウなステップを踏むように歌声を絡ませる「私とワルツを」、またライブでの披露はレアな「ダイニングチキン」は引き裂かれた心の重い痛みを声に映す。シンプルで美しいピアノとストリングスの調べに、身体を震わせるようにして放つそのボーカルが凛と映える。客席からは、一段と長く大きな拍手が湧き上がった。「EVER AFTER」や「火の鳥」、そして「MAGICAL WORLD」など観客に語りかけ、また優しく抱擁するような曲が続き、さらに圧巻だったのが「CROW」。高音のバイオリンの旋律とふくよかなチェロの響き、そしてパーカッシヴなピアノの伴奏とともに、心の奥底から放つ力強いボーカルが、観客ひとりひとりの想いや憂いのようなものも昇華する。
後半はリリカルな「蛍」にはじまり、またデビューから20年を迎えた今だからこそ、不器用な生き方や自身の音楽人生を支えてくれた人たちへの心からの感謝の想いを素直に綴った「書きかけの手紙」(20周年のオールタイムベストアルバム『REQUIEM AND SILENCE』収録)が披露された。この新たな曲から、初期の「月光」へと続く流れも感慨深い。心の置き場がなく痛みにまみれてもがき、手を伸ばす、その衝動は今なお生々しくあり、また一方でこの「月光」が今の世の中に差す光のようにも届く。エモーショナルでとても美しい時が流れた。ここまでMCなし、ノンストップで歌ってきた鬼束。一言挨拶を交わすと、ラストに「嵐が丘」を歌い、今一度観客の心をかき乱し「UNHESITATE」の東京公演の幕を閉じた。エンディングには、10月に配信リリースされ、また11月25日リリースの最新アルバム『HYSTERIA』にも収録された「焼ける川」が会場に響く。デビュー20周年を経て、また新たに歩みだした鬼束ちひろに出会えた一夜となった。(ライター:吉羽さおり)
1. BORDERLINE
2. End of the world
3. Tiger in my Love
4. Beautiful Fighter
5. イノセンス
6. 私とワルツを
7. 流星群
8. ダイニングチキン
9. EVER AFTER
10. 悲しみの気球
11. 火の鳥
12. MAGICAL WORLD
13. CROW
14. 蛍
15. 書きかけの手紙
16. 月光
17. 嵐ヶ丘
写真・photographer
西岡 浩記 | NISHIOKA Hiroki